福井県におけるベンチャー支援の現状について(2023Feb.)

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 公益財団法人ふくい産業支援センター(以下、「当センター」)では、2017年4月にプロジェクトを立ち上げ、独自の企画でベンチャー支援事業を実施しています。本事業も2023年春で7年目を迎え、日本各地からお問合せをいただく機会も増えました。
 そこで、本ブログで改めて、当センターが行うベンチャー支援事業の内容を体系的にまとめ、ご紹介したいと思います。
※本記事は、2022年7月に書いた記事をアップデートしました

はじめに

 
 IPOや全国展開をねらう成長志向の高い経営者たちが集い、切磋琢磨し合う場が福井県にあります。それが「福井ベンチャー塾」です。
 
 福井ベンチャー塾とは、福井ベンチャーピッチ登壇後のフォローアップを主な目的に、2ヶ月に一度のペースで開催する実践型経営塾で、2023年春で6期目を迎えます。
 

 
 塾長は、地方ならではの地道なビジネスモデルで、2017年7月にマザーズ上場を果たした、ユニフォームネクスト株式会社の横井康孝社長です。


 
 塾長・塾生ともに秘密保持契約(NDA)を結び、場の安全を確保した上で、現状抱える課題や悩みなどを赤裸々にシェアし合います。
 
 横井塾長からの具体的なアドバイスを通して、塾生は様々な観点から自社のビジネスを徹底的に見つめ直し、自社の経営に直ちに応用していきます。
 

 
 今期のメンバーは、20代から50代までの12名で、業種も多種多様です。
 アプリ開発、魚問屋、ITサービス、販促・印刷業、メンズアパレル、建材問屋、文具店、空き家買取り業、オリジナルプロテイン販売、美容室、ドローン事業など、多岐にわたります。
 
 創業間もない20代のスタートアップから、売上高100億円超のアトツギベンチャーまで、年齢・業種・事業規模など異なる経営者たちが集い、「ビジネスの成長」という共通目的をもって切磋琢磨し合う場が、福井ベンチャー塾です。
 

 
 安定・着実志向が根強い地方では、全国・世界に打って出るような成長志向をもつ経営者の母数が、都会と比べて圧倒的に少ないのが現状です。
 そんな環境の中に、秀逸なビジネスモデルをもつ若いスタートアップにターゲットを絞った都会の支援スキームをそのまま持ち込んでも、地方の現状にフィットせず、打ち上げ花火で終わってしまいかねません。

 そうならないためにも、当センターでは、「地方におけるベンチャー支援のあるべき姿とは何か」を日々考えながら、事業運営に取り組んでいます。
 

福井ベンチャーピッチとは

 
 本プロジェクトは、県内初のピッチイベント「福井ベンチャーピッチ」の立ち上げからスタートしました。 

 福井ベンチャーピッチとは、成長意欲の高い県内ベンチャー企業が、投資家や金融機関、事業会社を前に、自社のビジネスをプレゼンテーションするピッチイベントです。

 金融機関やベンチャーキャピタル(VC)などが都市圏や地方都市で開催するケースが多い中で、福井のような田舎で、しかも地元の公的支援機関が単独で、ピッチイベントを継続開催しているのは全国的にも珍しいと言われています。

 過去8回の登壇企業は41社(延べ43社)に上ります。選考会を通過した登壇企業は、①金融機関やVCとのネットワーキング、②ビジネスモデルのブラッシュアップ、③当センターからの継続的なフォローという3つの支援を通じ、資金調達・事業提携・販路拡大などのチャンスを広げることができます。
 

 
 立ち上げ当初は、ビジネスモデルに可能性のある企業を直接訪問してピッチ登壇を呼びかけていました。現在でも、可能性のある経営者に積極的に声をかけるなど、登壇するベンチャー企業登壇者の発掘はもっとも苦労している部分です。ただ、回を重ねるごとに応募者は増えてきており、ここ数年の登壇の選考倍率は2~3倍となっています。

ふくいベンチャー創出プロジェクトとは 

 
 福井ベンチャーピッチの立ち上げからスタートした本プロジェクトでしたが、県内ベンチャー企業の成長に合わせて肉付けしていく形で、支援メニューを少しずつ増やし、バージョンアップさせています。
 

 
 ふり返ると、事業の4年目頃から、登壇企業の中から具体的な上場準備に入る企業が複数社現われ始めたことが、事業拡大の大きなきっかけになったように思います。

 2023年2月現在は、支援フェーズを大きく5つに分けてプログラムを組んでいます。
 事業名にそれぞれ報告ブログのリンクを貼っています。よろしければ青色になっている文字をクリックしてご覧ください。

▶1:機運の醸成
◆「ふくいベンチャー創出セミナー」
 ※開催報告ブログ
◆勉強会・ワークショップ
◆個別相談窓口

▶2:企業の発掘
◆担当者による個別ヒアリング

▶3:企業の育成
◆「福井ベンチャーピッチ」
 ※第7回開催報告ブログ
◆「NEXTベンチャーイベント」
 ※開催報告ブログ
◆担当者による個別メンタリング
◆県内外VC等による個別面談

▶4:育成後のフォローアップ
◆「福井ベンチャー塾」
 ※開催報告ブログ
◆担当者による個別メンタリング
◆県内外VC等による個別面談

▶5:上場・全国展開支援
◆「福井ベンチャー塾」
◆「成長支援メンタリングプログラム」
 ※開催報告ブログ
◆県内外VC等による個別面談

 

年々高まる県内のベンチャー機運

 
 おかげさまで、県内におけるベンチャー機運は年々高まりを見せています。
 
 2022年11月に開催した第8回福井ベンチャーピッチでは、ベンチャーキャピタル、金融機関、事業会社等、約324名のベンチャー支援者にご聴講いただきました。聴講者数は、第1回開催時から約3.6倍に増えました。
 

 
 2021年からは、杉本福井県知事にもご出席いただいております。第7回開催時には、オープニングセッションにもご登壇いただきました。
 ベンチャーイベントに県知事自ら登壇し、ご自身の言葉で、地元上場企業の社長(ユニフォームネクスト横井社長)と闊達な意見交換をされる様子は、県内外から大きな反響を呼びました。
 

第7回開催時のオープニングセッションの様子
 
 2022年6月に開催したふくいベンチャー創出セミナー「地方発ベンチャー 成長の可能性」では、県内企業経営者を中心に453名の方にご参加いただきました。参加者数は、2019年時から約6.7倍に増えました。
 

 
 特別講師としてご登壇いただいた、山井太氏(株式会社スノーピーク 会長兼社長執行役員)が、「地方のベンチャーセミナーでここまで盛り上がっている県は見たことがない」と驚くほどの盛況ぶりでした。
 

ふくいベンチャー創出セミナーの様子

特徴は「ベンチャー支援の内製化」

 
 当センター事業の特徴は、地域の実情にフィットした施策を行うべく「ベンチャー支援の内製化」にとことんこだわり、事業の全てを担当者が企画・運営・実施している点だと思います。

 地元上場企業社長、地元VC等の協力のもと、担当者であるセンター職員が地域のベンチャーエコシステムのハブとなり、企業の発掘からIPOや全国展開を視野に入れた成長支援まで、一気通貫で伴走支援しています。


福井ベンチャー塾の様子
 
 外部委託を行わず、事業の企画・運営のすべてを独自で行うことは、「外的要因の影響を受けにくく、安定した支援体制を築ける」「ベンチャー企業のニーズを即座に支援メニューに反映できる」など、利点が多いです。

 また、地域のベンチャーエコシステムを最大限に生かすことをベースにプログラムを構成しているため、先輩起業家が若手起業家を育成するという好循環も新たに生まれています。
 

 

担当者のつぶやき

 
 地方におけるベンチャー支援施策といえば、「(ノウハウや経験や人脈が十分に無いから)まずはノウハウをもつ経験豊富な都会のコンサルタントに外注に出す」というのが一般的な印象です。

 しかし、5~10年という中長期的視点から見てみると、「(ノウハウも経験も人脈も十分に無くとも)立ち上がりの段階から地域が主体となってベンチャー支援に挑戦する」方が、じわじわと後から効いてくるのではないかと私は思います。

 もちろん、何が正しいと言い切れるものはなく、当センターのやり方が必ずしも他県にハマるともわかりませんが、少なくとも、福井県ではこの内製化モデルで少しずつベンチャー機運が高まっているということで、このようなブログを書かせていただきました!
 

問い合わせ先

 
公益財団法人ふくい産業支援センター
新産業支援部
ベンチャー支援担当:岡田 留理
TEL:0776-67-7411
Email:venture@fisc.jp
 

【本ブログの要約】
 公益財団法人ふくい産業支援センターでは、2017年4月に「ふくいベンチャー創出プロジェクト」を立ち上げ、ベンチャー支援事業を実施しています。 
 地元上場企業社長、金融機関等の協力のもと、担当者であるセンター職員が地域のベンチャーエコシステムのハブとなり、企業の発掘からIPOや全国展開を視野に入れた成長支援まで、一気通貫で伴走支援するスタイルです。地域の実情にフィットした施策を行うべく、外部委託は行わず、事業の全てを担当者が企画・運営・実施しています。
 本事業は2023年春で7年目を迎え、年間延べ1,100名が利用する事業に成長。福井県内におけるベンチャー機運は年々盛り上がっています。

 


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岡田 留理(おかだ るり)

公益財団法人ふくい産業支援センター職員。特定社会保険労務士。 開業社労士時代は、中小企業の顧問、労働局の総合労働相談員、人材育成コンサルタントを経験。2015年にふくい産業支援センターに入職した。 2015年よりふくい創業者育成プロジェクト(現ふくいベンチャー創出プロジェクト)を担当。2017年に「福井ベンチャーピッチ」を立ち上げ、県内ベンチャー企業の登竜門となるピッチイベントへと成長させる。2018年、近畿経済産業局が取りまとめる関西企業フロントラインにて、関西における「中小企業の頼りになる支援人材」として紹介された。 ★President Onlineに寄稿した記事→http://urx2.nu/pVYq

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